【基礎から学ぶ設計思想】 突入電流(ラッシュ電流)とスパイク電流とは? ~瞬間的に発生するピーク電流とその発生要因について~

電気電子
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回路設計を行う上で考慮すべき事柄は、使用環境・製品寿命・性能のバラつき・熱の影響・ノイズの影響など多岐に渡ります。
突き詰めていくと際限が無いので、本記事では設計時に意識しておくべきだと感じた内容についてわかりやすくまとめています。
考え方自体は回路設計以外にも通じるものがあるので、知っていて損をする内容ではないかと思いますよ?

今回は、突入電流・ラッシュ電流・スパイク電流についての説明です。

1.初めに

開発中の製品には様々な試験・評価を行います。
その中に信頼性試験というものが存在します。

高温動作試験・低温動作試験・絶縁抵抗試験・耐電圧試験など字面から想像できる試験が多いのですが、その中に突入電流測定瞬時電流測定のような名称の試験がある可能性が高いです。
字面からは『何か瞬間的に電流が流れるんだろうな』ということは読み取れますが、“なぜ”・“どこに”などの情報は思い浮かびませんよね?

今回は、そんな突入電流について簡単に説明していこうと思います。

2.突入電流とは?ラッシュ電流とは?

突入電流[rush current/inrush current]とは、電源投入時に瞬間的に流れることがある定格を超えた大きな電流のことです。
瞬間的に流れた後は回路設計した通りの定常状態に戻ります。

英語の綴りが[rush/inrush]になっているからか、ラッシュ電流インラッシュ電流と呼ばれていることもあります。
データシートの類だと割とラッシュ電流呼びされているので、こちらの呼び方も覚えておくと吉です。

突入電流が発生する場合、定格を超えている時間やピーク値と定格値の差を実際に測定して、仕様を満たしているか確認する必要があります
絶対最大定格を超えていたらアウトですが、それ以下に収まっているなら特に異常には結びつかないで問題が無い場合もありますからね。
だから突入電流測定が信頼性試験項目の中に含まれているわけです。

突入電流はどの程度の大きさの電流値なのかというと、定格電流の数倍~十数倍程度と言われています。
結構な大きさですよね。
そんな大きな電流が流れてしまいますので、過電流による部品の過熱・破壊、漏電感知用の遮断機が動作してしまうなどの不具合が発生することがあります
その為、突入電流の検証・確認は重要な項目なのです。

3.突入電流の発生要因について

では、なぜ突入電流なんてものが発生するのか解説していきます。

ただ、突入電流が発生する要因は多々あり、到底説明がしきれません。
なので、有名どころのみ取り上げて説明していきますね。

①回路にコンデンサを含んでいるため

空のコンデンサに電源を繋いだら、電荷を蓄え終えるまで電流が流れますよね?
なので、空のコンデンサが回路に存在すると充電する分の電流が多く流れてしまい、定格値を超えた電流が流れてしまうことがあります。

コンデンサの充電は瞬時に行われるので、充電中に一瞬だけ定格値を超え、充電を終えたら余分な電流が流れなくなって定常値に戻ります。
その為、何度も電源ON/OFFを繰り返しているとコンデンサが中途半端に充電された状態になるので、突入電流を正確に測定できなくなります。
なので、突入電流波形をオシロスコープで測定する際は、一度電源をOFFにしてから少し時間を置く必要があります

そもそも電源付近にコンデンサを配置しなければ良いだけの話しなのではないかと思うかもしれませんが、電源電圧が変動しないように安定化させるためにはコンデンサが有用なのでそうもいかないという背景があります。
突入電流の増加と電源安定化を天秤にかけたら電源安定化の方に傾くというだけの話です。

②フィラメントを使用しているため

白熱電球などに使用されているフィラメントには、低温時は抵抗が小さく、高温時は抵抗が大きくなるという特性があります。
電球はつけっぱなしにするのが常なので、電源を供給して放置した状態が普通ということになります。
なので、電球が熱くなって抵抗が大きい状態を正常として回路を設計します。

すると、初めは冷え切った状態の電球に電源を供給しなければならなくなるので、回路の抵抗値が小さくなります。
その為、電流が流れやすくなり、突入電流が発生します。

4.突入電流とスパイク電流の違い

突入電流とよく混同されている用語として、スパイク電流というものがあります。
どちらも似たような用語なのですが、微妙に異なる部分があります。
それは、発生時間です。

端的に言うと、突入電流は数ミリ秒~数十ミリ秒程度スパイク電流はナノ秒~マイクロ秒程度の瞬間的なピーク電流のことを言います。

突入電流は、先程説明したように電源を入れてコンデンサを充電してといったプロセスで発生する瞬間的な大電流のことでした。

それに対してスパイク電流は、回路内で瞬間的に発生する非常に短いピーク電流のことを指しています。
高周波ノイズとかの類いということです。

なので、瞬間的なピーク電流である点は同じなのですが、その発生要因や規模が異なるのです
間違えないように注意しましょう。

以上、突入電流・ラッシュ電流・スパイク電流についての説明でした。