今回は、「バイポーラトランジスタにベース抵抗が繋いである理由と定数の選び方」についての説明です。
目次
1.初めに
バイポーラトランジスタ(※FETじゃない方の一般的なトランジスタ、以降はトランジスタと表記します)が使用されている回路図を眺めていると、ベース端子に抵抗が接続されていたり、ベース-エミッタ間に抵抗が接続されていることはありませんでしょうか?
図1のようなイメージです。

ベース抵抗及びベース-エミッタ間抵抗については、部品によっては内蔵されている種類なんかもあります。
このように、抵抗を内蔵したトランジスタのことは、デジタルトランジスタ、略してデジトラと呼ばれています。
ベース端子に抵抗を繋いでいるのはまだなんとなくわかるかもしれませんが、ベース-エミッタ間に抵抗が繋がれている理由は初見ではわからないかと思います。
トランジスタの各端子がどんな役割・接続をするものなのかは教科書で習ったとしても、ベース-エミッタ間に抵抗を繋いでいる場合については多分教科書では習いませんからね。
そして、ベース-エミッタ間抵抗は絶対に繋がれているわけではないところが更に混乱に拍車をかけます。
繋がっていないと壊れる可能性もあるのですが、不要な場合は普通に繋がってないんです。
では、これらの抵抗はどのような対策として繋いであるものなのでしょうか?
ということで、今回はトランジスタにベース抵抗が繋いである理由と、適切な定数の考え方について解説していきます。
※ベース-エミッタ間抵抗が繋いである理由については別途まとめていますので、本記事では触れません。
2.トランジスタにベース抵抗が繋いである理由
まずは、ベース抵抗が繋いである理由から説明していきます。
ベース抵抗RBは、大まかに以下の2つの理由で用いられます。
①トランジスタの故障防止・保護
②トランジスタの動作を安定させる
①トランジスタの故障防止・保護
例えば、KTC3875SというKEC社製のトランジスタを、以下のように接続したとします。

素のトランジスタをそのまま接続していますね。
このトランジスタの仕様書を確認してみると、以下のように絶対最大定格(一瞬たりとも超えてはいけない限度値のこと)が定められています。

これを見ると、ベース電流IBが30mAになっていますね。
ということは、このトランジスタには絶対に30mA以上のベース電流IBを流してはいけないということになります。
このトランジスタはIB-VBE特性グラフから常温25℃環境下で大体0.5~0.8V程度のベース-エミッタ間電圧VBEがかかった時に安全にスイッチONすることが読み取れます。

その為、3.3Vの電圧をベース電圧VBとして印加したとします。
では、図2の接続でベース電圧が3.3Vになったらどうなるでしょうか?
抵抗で電流を制限しているわけではないのでトランジスタのベース端子に大電流が流れ込み、トランジスタが破壊される可能性があるのです。
ついでに言うと、トランジスタのベース端子に繋いでいる駆動回路も過電流を流そうとしてしまうので、そちらの回路も破壊され兼ねません。

では、そうならないようにするにはどうしたら良いでしょうか?
答えは単純、ベース電流IBを絞って適正な値になるよう制限してあげれば良いのです。
だからベース抵抗RBを繋ぐ必要があるんですね。
その為、ベース抵抗RBの値はトランジスタの仕様書を確認してベース電流IBが絶対最大定格を超えない範囲で設定しておくことが最低条件になります。
考え方としては、電流経路は図6のようになりますので、印加電圧からベース-エミッタ間電圧VBEを差し引いた電圧が抵抗R001の両端にかかるようになります。
ここでR001に流れる電流が30mAを下回るようにすることが最低条件だということです。

何度も最低条件と言っているのには理由があり、実は他にも考えなければならないことがあります。
ただ、そちらはもうちょっと踏み込んだ内容になっていきますので、別の記事としてまとめるかと思います。
②トランジスタの動作を安定させる
トランジスタをスイッチングさせるためには、ベース電圧VBを供給してベース-エミッタ間に電圧VBEが掛かるようにして、ベース電流IBを流す必要があります。
ただ、図4に示したように、ベース-エミッタ間電圧VBEが少しでも変化すると、ベース電流IBは大きく変化してしまいます。

例えば、環境温度Ta=25℃でベース-エミッタ間電圧VBEが0.6Vから0.7Vに0.1Vだけ変化した場合、ベース電流IBは2μAから100μAまで増加します。
ベース-エミッタ間電圧VBEは精々1.17倍にしかなっていないのに、それだけの変化の影響でベース電流IBが50倍に膨れ上がるのです。
では、ベース抵抗無しでベース電圧VBが供給されていた場合はどうなるでしょうか?
抵抗無しでダイオードに順方向接続しているような状態になるので、ほぼショートしているようなものです。
ベース電圧VBがダイレクトにトランジスタのベース端子に入っていくので、ベース-エミッタ間電圧VBEの調整なんてできません。
こんな状態では、到底ベース電流の調整なんてできませんよね?
トランジスタは電流駆動型のデバイスなので、ベース抵抗が無くてベース電流を制御できない繋ぎではトランジスタの動作が安定しないのです。
ちょっと印加電圧が変化するだけでベース電流IBやコレクタ電流IC(IC=hFEIB)が指数関数的に大きく変化してしまいますからね。
では、ベース抵抗を付けるとどうなるかというと、ベース電流IB=ベース電圧VB÷ベース抵抗RBの関係になるので、ベース電圧に対して一定のベース電流を供給できるようになります。
また、オームの法則より、ベース電圧VBが5%増えたらその分ベース電流IBも5%増えるという具合に一次関数的に変化しますので、トランジスタのベース端子への供給電圧・供給電流も容易に調整可能です。
だから、ベース抵抗RBがあるとトランジスタを安定動作させることができるのです。
ベース抵抗が無い時はベース電圧VBの変化に対してベース電流IBが指数関数的に増加していたので、調整のしやすさが段違いなんですね。
3.ベース抵抗の適切な定数設定について
ベース抵抗が必要な理由を説明したので、次はベース抵抗の定数の決め方について説明します。
トランジスタを増幅機能とスイッチング機能のどちらで使用するのかで細部の考え方は変わりますが、大まかには同じような検討方法になります。
ここでは、よく使用されているスイッチング用途について考えます。
今、トランジスタを特定の条件時にスイッチングさせて、トランジスタON時にコレクタ端子側に繋いだLEDを点灯させたかったとします。
回路としては以下のようなイメージですね。
図6にちょっと手を加えただけの回路です。
※図6を描いていたデータを紛失したので、雑に改造している点は気にしないでください。

この回路の場合、最初に決定したいのはLED D001に流す電流であるコレクタ電流ICです。
このLEDのデータシートを閲覧したところ、電流を20mA程度流して光らせたかったとします。
絶対最大定格は35mAです。
この時のベース抵抗の適切な値を求めてみましょう。
コレクタ抵抗を決定する
まず、スイッチング用途で使用するということは、トランジスタON時のコレクタ-エミッタ間電圧VCEはコレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)となります。
スイッチング用途で使用するということは飽和領域(ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しない領域)での使用となり、飽和領域ではトランジスタON時の損失が最低限に抑えられます。
その結果、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが飽和してコレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)になるのです。
コレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)は、VCE(sat)-IC特性グラフから読み取ることが可能です。

今回はLEDに20mA流したいので、コレクタ電流ICは20mAになります。
なので、図8からコレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)は0.05V程度になると読み取れます。
ということは、コレクタ電流ICが流れる経路の関係は以下のようになります。
3.3-R002×IC-VCE(sat)=3.3-R002×0.02-0.05=0
R002=162.5Ω
LEDに20mA流すためにはR002を162.5Ωにする必要があるとわかりました。
ですが、抵抗の定数はE系列のものを使用するのが一般的なので、162.5Ωを実現しようとすると無駄に使用抵抗の種類が増えてしまいます。
E6系列の150Ωにするか、同じくE6系列の10Ωを直列接続して160Ωにする程度にするのが良いでしょう。
ここでは150Ωにしてみます。
抵抗が若干低くなるので、LEDに流れる電流は約22mAになります。
絶対最大定格は35mAなので、使用上問題無いことはわかりますね。
ちなみに、ここでは抵抗値や供給電圧のバラつきを考慮してないので、実際に設計する際はMax/Minでどの程度の電圧が掛かるのかを考え、使用部品の絶対最大定格を満たすような範囲に収める必要があります。
この辺の考え方はまた別途まとめます。
ベース抵抗を決定する
ここまでで決定したパラメータを盛り込んだ回路は以下のようになります。

ここまでわかれば次は本題のベース抵抗を決定できます。
改めてVCE(sat)-IC特性グラフを見てみましょう。

この図をよく見ると、IC/IB=10と書かれていますよね?
このように、スイッチング用途で使用する場合は飽和領域で使用する関係上、電流増幅率hFEが非常に小さくなります。
飽和領域はベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICが増加しない領域ですからね。
ということで、スイッチング用途で使用する場合は飽和して電流増幅率hFEが10になっていることがわかりました。
この関係から、ベース電流IB=IC/10=2.2mAだとわかります。
後は、このトランジスタへの入力電圧VINとベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)の差分がベース抵抗であるR001に掛かった際に2.2mAのベース電流が流れるように調整するだけです。
ベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)は、VBE(sat)-IC特性グラフから読み取ります。

IC=22mAの時なので、大体0.7Vになっていますね。
ちょうど一般的なダイオードの順方向電圧と同じくらいです。
VIN-R001×IB=VBE(sat)
R001=(VIN-VBE(sat))/IB=(VIN-0.7)/0.022
仮にベース電圧VIN=3.3Vだったとすると、ベース抵抗R001は(3.3-0.7)/0.022≒118.2Ω程度に設定する必要があります。
ここでもE系列を意識する必要がありますので、ベース抵抗は120Ωくらいが適切だとわかります。
このような手順でベース抵抗を決定していくわけです。
中々面倒くさいですよね。
ちなみに、仮に増幅用途でトランジスタを使用していた場合、電流増幅率がもっと大きくなり、コレクタ-エミッタ間電圧VCEも大きくなり、トランジスタでの消費電力・損失・発熱量が大きくなってくるというわけです。
増幅用途で使用すると、LEDの明るさを入力電圧(ここで言うベース電圧)で可変にできるという利点はあるのですが、入力電圧をPWM制御することでもLEDの明るさを調整することができるので、結局はスイッチング用途で使用することの方が多いんですよね。
以上、「バイポーラトランジスタにベース抵抗が繋いである理由と定数の選び方」についての説明でした。




