【基礎から学ぶトランジスタ】 スイッチング用途のトランジスタ設計 ~バラつきを考慮した妥当性の確認方法~

電気電子
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私たちの身の周りにある電子製品には、様々な電子部品が使用されています。
そんな中でも、特に根幹的な部分に使用されている重要な部品として、トランジスタという部品が存在します。
何かしらのICが存在したのなら、トランジスタはほぼほぼ使用されています。
本記事では、そんなトランジスタの種類・構造・特性などについてまとめてみました。

今回は、「スイッチング用途のトランジスタ設計(バラつきを考慮した妥当性の確認方法)」についての説明です。

1.初めに

トランジスタとは、増幅機能とスイッチング機能を実現できる部品です。
どちらの機能としても使用されることはありますが、気軽によく使われているのはスイッチング用途であることが多いです。
ON/OFFにスイッチングさせるだけだから単純かと思いきや、いざ回路設計をしようとなるとトランジスタの各端子に適切な抵抗を付ける必要があるので、初めは何が何やらという状態になるんですよね。

ということで、今回はスイッチング用途でトランジスタを使用する場合の具体的な考え方を例を用いてまとめてみました。
抵抗値のバラつき等を考慮した上で『本当にこの使い方で大丈夫なのか?』という妥当性の確認方法についての解説例となります。

その解説をする上でトランジスタにベース抵抗及びベース-エミッタ間抵抗が用いられる理由についても理解しておく必要がある為、そちらの知識についてはあまり自信が無いという方は先に以下の記事に目を通してみてください。
何事も理解するには順を追う必要があるのです。

【基礎から学ぶトランジスタ】 バイポーラトランジスタにベース抵抗が繋いである理由と定数の選び方
私たちの身の周りにある電子製品には、様々な電子部品が使用されています。そんな中でも、特に根幹的な部分に使用されている重要な部品として、トランジスタという部品が存在します。本記事では、そんなトランジスタの種類・構造・特性などについてまとめてみました。今回はバイポーラトランジスタにベース抵抗が繋いである理由と定数の選び方についてです。
【基礎から学ぶトランジスタ】 バイポーラトランジスタにベース-エミッタ間抵抗が繋いである理由と定数の選び方
私たちの身の周りにある電子製品には、様々な電子部品が使用されています。そんな中でも、特に根幹的な部分に使用されている重要な部品として、トランジスタという部品が存在します。本記事では、そんなトランジスタの種類・構造・特性などについてまとめてみました。今回はバイポーラトランジスタにベース-エミッタ間抵抗が繋いである理由と定数の選び方についてです。

2.トランジスタ設計時の注意点

まずはトランジスタ設計時に何を注意するかについて説明していきます。

トランジスタをスイッチング要素で使用できるかどうかは、トランジスタ回路の負荷駆動能力に対して実際に流れる負荷電流が小さくなっているかどうかで最終的な判断をします

例えば、トランジスタの負荷駆動能力が10mA程度だったとして、ここにある負荷を繋ぐと負荷電流が20mA必要な計算になったとします。
この場合、20mAも負荷電流を流す実力がトランジスタには無いということになるので、正常に動作しないことはわかりますよね?

では、トランジスタの負荷駆動能力が10mA程度だったとして、ここに別の負荷を繋ぐと負荷電流が9mA必要な計算になったとします。
この場合、正常に動作すると思いますか?
答えは、“バラつきを考慮した計算をしているなら正常に動作する”です。

トランジスタを動作させる場合、電源電圧を供給したり、ベース端子などに抵抗を追加することになります。
様々な部品を使用するわけですが、どの部品もまったく同じものを作ることは不可能です。
絶対に何かしらの誤差が生じます。

例えば、10kΩの抵抗があったとすると、抵抗値のバラつきはその製品によって±1%や±5%と規定されています。
仮に±5%だった場合、9.95~10.05kΩの間で抵抗値がブレる可能性があるわけです。
それらのバラつきが積み重なって上振れした時に、負荷電流が9mAではなく10mAを超えてしまう可能性があるのです。

また、トランジスタの負荷駆動能力10mAに関しても、バラつきを考慮してしっかりとした最低値を算出する必要があります。
しっかりと計算したトランジスタの負荷駆動能力の最低値が8.5mAで、しっかりと計算した負荷電流の最大値が9.0mAだったとしたら、その組み合わせが実現してしまうと負荷駆動能力が足りずに正常に動作しないことになりますからね。

ということで、バラつきを考慮して妥当性を確認する手順を今回は説明していくことになります。

3.バラつきを考慮した妥当性の確認方法

では、実際にトランジスタ回路を例に挙げ、バラつきを考慮した妥当性の確認手順を解説していきます。

ここでは、トランジスタをスイッチング動作させてLEDを点灯/消灯させるという単純な回路について考えていきます。
使用するトランジスタは、KEC社製トランジスタのKTC3875Sだとします。
汎用的なnpnトランジスタです。

今回は、ベーシックな使い方として、npn型トランジスタのコレクタ端子にLEDを接続する回路を形成します。

図1

ベース抵抗R001は4.7kΩ、ベース-エミッタ間抵抗R002は10kΩ、コレクタ抵抗R003は1kΩで、各抵抗値の許容差はすべて±5%とします。

ベース抵抗及びベース-エミッタ間抵抗の抵抗値は、よく使用されている範囲の定数としているだけで、変更しても問題無いです。
それこそ、以降の計算で妥当性がないと判断された場合、抵抗値を調整することになります。

ここから、トランジスタの負荷駆動電流のMin値(ミニマム値・最低値)と、実駆動での負荷電流のMax値(マックス値・最大値)を計算していきます。
トランジスタの負荷駆動電流のMin値>実駆動での負荷電流のMax値になっていれば、理論上は問題なく動作することになりますからね。

まずは、トランジスタの負荷駆動電流のMin値を求めていきます。

トランジスタの負荷駆動電流のMin値を計算する

今回説明する回路はエミッタ接地回路なので、トランジスタの負荷駆動電流とはコレクタ電流ICを指しています。
コレクタ電流IC=電流増幅率hFE×ベース電流IBなので、まずはベース電流IBを求める必要があります。
ベース電流をIB、ベース-エミッタ間電流をIBE、IBとIBEに分割される前の入力電流をIIN、入力電圧をVINとします。

図2

入力電圧VINAND論理回路ICの出力信号だったとします。

コレクタ電流IC=直流電流増幅率hFE×ベース電流IBなので、ベース電流IBが小さいほどコレクタ電流ICも小さくなります。
オームの法則よりI=V/Rなので、入力電圧VINが小さいほどベース電流IBが小さくなり、コレクタ電流ICも小さくなります。
なので、バラつきを考えると、入力電圧VINは最小値にて計算する必要があります。

ここでは、AND論理回路のICの出力信号がHighの時の最低値は3.2Vだったとします。
データシートにハイレベル出力電圧VOHが載っているはずなので、そこから読み取りましょう。

図3

次は入力電流IINを求めます。

入力電流IINを計算で求めようとすると、式1のようになります。

式1

オームの法則をベース抵抗R001近辺に適用しているだけです。

駆動源抵抗とは、このトランジスタの駆動電圧となるVINを発生させているAND論理回路の出力ポートの抵抗のことです
ただ、駆動源抵抗に関してはデータシートに載っていないことが多いので、そんな時は暫定で0.1kΩ Maxで考えておきましょう。
入力電流IINが小さいほどベース電流IBも小さくなることがわかるので、駆動源抵抗は最大値で考えています。

そうなると、入力電流IINを計算するにはベース-エミッタ間電圧VBEだけ未だわかっていないことになるので、ここを明らかにする必要があります。

トランジスタがスイッチング動作するには充分なベース-エミッタ間電圧VBEを印可する必要があります。
トランジスタをスイッチング用途で使用する場合は飽和領域(ベース電流IBを大きくしてもコレクタ電流ICがあまり増加しない領域)での使用となり、飽和領域ではトランジスタON時の損失が最低限に抑えられます。
その結果、ベース-エミッタ間電圧VBEが飽和してベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)になります。
このベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)は、IC-VBE(sat)特性グラフから読み取れます。

図4:KEC社製トランジスタ KTC3875SのIC-VBE(sat)特性グラフ

今回は、LEDを点灯させるためにコレクタ電流ICは20mA程度にしたいので、コレクタ電流ICは大きめに見積もって30mAだとします。
すると、図4からベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)は0.75V程度だと読み取れます。

式1から、ベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)が大きいほど入力電流IINは小さくなることがわかるので、ベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)はなるべく大きく見積もる必要があります。
だから、コレクタ電流ICを大きめに見積もって30mAとしたわけです。
これで、ベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)はMax 0.75Vだとわかりました。

図5

これで必要なパラメータが揃ったので、式1から入力電流IINを求めます。

式1-2

これで入力電流IINが求められました…と思った方がいたら、それは間違いです。
これだと、ベース抵抗R001のバラつきを考慮していないんですよね。
入力電流IINがなるべく小さくなる条件で考えたいので、ベース抵抗R001は大きくなる方向でバラつくと考える必要があります。
各抵抗の許容差は±5%だったので、ベース抵抗R001は、4.7kΩ×1.05=4.935kΩと考えましょう。

式1-3

ということで、入力電流IINの最小値は0.49mAになります。

図6

ベース電流IB=入力電流IIN-ベース-エミッタ間電流IBEなので、次はベース-エミッタ間電流IBEを求めます。
こちらは単純で、図6を見てわかる通り、ベース-エミッタ間抵抗R002にはベース-エミッタ間電圧VBEが0.75V掛かっています。
なので、ベース-エミッタ間電流IBE=ベース-エミッタ間電圧VBE÷ベース-エミッタ間抵抗R002で求めることができます。

ただし、ここでも抵抗のバラつきが関係してきます。
ベース電流IBはなるべく小さくなる条件で考えたいので、ベース-エミッタ間電流IBEはなるべく大きくなる条件で考えたいです。
よって、ベース-エミッタ間抵抗R002は、10kΩ×0.95=9.5kΩと考えます。

なので、ベース-エミッタ間電流IBE=0.75[V]÷9.5[kΩ]≒0.079mAになります。
ベース電流IB=入力電流IIN-ベース-エミッタ間電流IBEなので、IB=0.49-0.079=0.411[mA]だと導き出せます。

図7

これでやっとベース電流IBの最小値を計算できました。

後は、コレクタ電流IC=直流電流増幅率hFE×ベース電流IBに則ってコレクタ電流IC(トランジスタの負荷駆動電流)を求めるだけなのですが、ここにも曲者がいます。
それは、直流電流増幅率hFEです。

直流電流増幅率hFEは、電気的な特性として最小値と最大値が普通にデータシートに載っています。

図8:KEC社製トランジスタ KTC3875Sの電気的特性

コレクタ電流ICの最小値を求めたいので、これまでの流れから直流電流増幅率hFEは最小値である70と考えそうなものですが、それだと不充分です。
実は、トランジスタの直流電流増幅率hFEは、温度が低いほど小さくなります。

図8を見ると、Ta=25℃とありますが、これは常温25℃環境下のパラメータを表しています。
つまり、これよりも温度が低い環境でこのトランジスタを使用すると、直流電流増幅率hFEは70よりも小さくなる可能性があるのです
このトランジスタを採用する製品がもし0~40℃環境下での使用を想定しているものだった場合、直流電流増幅率hFEはもっと低くなるかもしれないんですね。

他にも、コレクタ-エミッタ間電圧VCEが小さければ小さいほど直流電流増幅率hFEが小さくなるという特性もあります。

このように、条件次第で直流電流増幅率hFEはもっと小さくなる可能性があるわけです。

その為、一般的にはマージンを考慮して、直流電流増幅率hFEはデータシート上の最低値を更に1/3~1/2として計算することが多いです。
私の所属している会社では、1/2としています。
ということで、ここでは直流電流増幅率hFEはMIN値の70を割る2して35だと考えます。

よって、コレクタ電流IC=直流電流増幅率hFE×ベース電流IB=35×0.411=14.385[mA]になります。
ただ、ベース電流IBは途中で四捨五入をしている値なので、ちゃんと四捨五入しない数値で計算すると14.27[mA]になります。
これがトランジスタの負荷駆動電流のMin値となります。

図9

実駆動での負荷電流のMax値を計算する

やり切った感が出てるかもしれませんが、まだ終わりではありません。
次は、比較対象となる実駆動での負荷電流のMax値を求めましょう。

今度は、3.3V~トランジスタのコレクタ端子~トランジスタのエミッタ端子~GNDの経路について見ていくことになります。
実駆動での負荷電流ICは、以下のように求められます。

式2

各パラメータを図に示します。

図10

まず、VCC(3.3V)のバラつきについて考えます。
3.3Vはバラついてきますので、以降はVCCと記載していきますね。

VCCをどのように生成しているのかにもよりますが、ここではDC/DCコンバータを使って外付け抵抗の定数を弄ることで3.3Vを作り出していたとします。
この場合、DC/DCコンバータの出力は外付け抵抗の定数のバラつきの影響を受けます。
抵抗値が想定より大きかったり小さかったりするので、3.3Vちょうどが出力されるわけではないのです。
ここでは、計算するとVCCは3.26~3.34Vの間でバラつく計算になったとします。

実駆動での負荷電流はMax値を求めたいので、式2より、VCCはMax値である3.34Vだと考えます。

図11

次にLED D001の順方向電圧VFですが、こちらはデータシートから読み取ります。
ここでは、データシート上で順方向電流IFが20mAの時のTyp値(標準値・代表値)が2.1Vだと考えることにします。
IF-VF特性グラフがあるのならもう少し厳密な値にしても良いですが、結局順方向電圧VF自体も個体差でバラつくので、Typ値で考えておくのが無難です。

図12

次にコレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)ですが、こちらはベース-エミッタ間飽和電圧VBE(sat)がコレクタ-エミッタ間の話に置き換わっただけです。
特性グラフから読み取れます。

ただ、読み取ったところで0.1V程度と非常に小さな値になる上に、式2を見てわかる通り、コレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)が小さい方が実駆動での負荷電流のMax値は大きくなるんですよね。
なので、特性グラフから読み取らずに0Vと考えてしまって問題無いです。

図13

後は、コレクタ抵抗R003のバラつきだけです。
式2から、コレクタ抵抗R003は小さいほど実駆動の負荷電流が大きくなることがわかります。
各抵抗の許容差は±5%だったので、コレクタ抵抗R003は、1kΩ×0.95=0.95kΩと考えましょう。

図14

これですべてのパラメータが明らかになったので、式2に代入することで実駆動での負荷電流ICを計算することができます。

式2-2

これがトランジスタの実駆動での負荷電流のMax値となります。

図15

トランジスタの負荷駆動電流の比較

最後に、トランジスタの負荷駆動電流の比較をして妥当性の判断をします。
トランジスタの負荷駆動電流のMin値>実駆動での負荷電流のMax値になっていれば、理論上は問題なく動作することになります。
トランジスタの負荷駆動電流のMin値は14.27mA、実駆動での負荷電流のMax値は1.31mAなので、14.27mA>1.31mAと不等号が成り立っていることがわかります。
よって、理論上動作に問題は無い回路になっていると言えます。

こんな感じにスイッチング用途のトランジスタ設計はしています。

ちなみに、この設計の場合、トランジスタの負荷駆動電流のMin値と比較して実駆動での負荷電流のMax値が大分小さくなっているので、コレクタ抵抗R003をもう少し大きくしてLEDの光を強くしたりといった変更も可能です。

以上、「スイッチング用途のトランジスタ設計(バラつきを考慮した妥当性の確認方法)」についての説明でした。