【基礎から学ぶ電線】 FFC選定時に気を付けるべきこと ~ピッチとメッキの違いと定格電流について~

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パソコンを使用する時は電源ケーブル、スマートフォンを充電する時は充電ケーブルを何気なくコンセントに挿しますよね?
身の周りには、何気なく使用している電線が無数に存在します。
本記事では、そんな電線の区分・種類や概要についてわかりやすく説明していけたらと思います。

今回は、「FFC選定時に気を付けるべきこと」についての説明です。

1.初めに

過去の記事にて、FFCとはどんなケーブルなのかを解説しています。

今回はもう少し踏み込んで、実際にFFCを選択する際に気を付けるべき点についてまとめていこうと思います

ピン数が多いからコンパクトなFFCを使用したいだとか、普通のケーブルを使用していたけど何らかの理由でFFCに置き換えたくなっただとか、そんな時に理解しておくべき内容となっています。

2.FFCの導体間隔/ピッチ

FFCは平型導体が平行に一定間隔で並べられたものです。
その並行導体群を絶縁フィルムで上下から挟み込んで熱溶着・圧着し、先端部分の平型導体のみ露出させた状態にします。
この露出した平型導体がFFC用ソケットの端子部とうまく接触することで導通するようになるので、平べったいFFCでも一般的なケーブル同様に結線することができるわけです。

図1

これが基本的なFFCなわけですが、平型導体の並ぶ間隔がFFCとFFCソケットで異なっていた場合、導体同士でうまく接触しなくなってしまうのは明確です。
その為、導体間隔をFFCとFFCソケットで揃える必要があります
この平型導体の間隔のことをピッチと呼びます。

コネクタのデータシートを閲覧していると「1.0mmピッチ」といった表記が当たり前のように出てきますが、これは「このコネクタは導体が1.0mm間隔で並んでいますよ!」という意味になるのです。

さて、そんなピッチですが、FFCにおいては主に以下の3種類が存在します。

1.25mmピッチ、1.0mmピッチ、0.5mmピッチ

なので、FFCを採用しようとした場合は、FFC及びそのFFCソケットのピッチを揃えることを忘れないように注意しましょう。
一般的なコネクタならピッチ違いはどう頑張っても挿せないですが、FFCのピッチ違いは挿そうと思えば挿せてしまいますからね…。

3.FFCのメッキの種類

FFCは先端の導体露出部が接触することでFFCソケットと導通すると述べました。
この導体露出部ですが、メッキ処理が施されています。
一般的なケーブルのコネクタに関してもハウジング内の端子にすずメッキや金メッキが施されていますので、同様にFFCでもメッキ処理がされているのです。

FFCにおけるメッキ処理に使用される金属は、すずの2種類になります。
普通のコネクタの端子と同じですね。

想像できるかと思いますが、すずと金では金の方がコストが高くなります。
性能を加味しても基本的にはすずメッキで事足りることが多いのですが、ある場合においては金メッキが推奨されるようになります。
それは、0.5mmピッチの場合です。
なので、基本的には1.25mmピッチ及び1.0mmピッチのFFCはすずメッキ、0.5mmピッチのFFCは金メッキとしていることが多いです
絶対では無いですけどね。

0.5mmピッチで金メッキが推奨される理由

では、何故そのようにすることが推奨されているのかを解説していきます。

メッキとして主流なのは“すず”です。
金メッキは使用環境が厳しくなっても使用できるというメリットがありますが、コストがかかるのがデメリットです。
なので、使用環境によっては金メッキにすることはあっても、基本的にはコスト重視ですずメッキが選ばれていました。

ただ、ある時期(1950年頃)にウィスカについて危惧されるようになりました。
ウィスカとは、結晶の表面付近から外側に向けて生成されるひげ状の細い結晶のことです。
金属表面から導通作用のある細い結晶が延びていくことになるので、近くに別の金属があった場合にショートしてしまうんです。

このウィスカなのですが、メッキ処理をした金属表面などに自然発生することがあります
ということで、すずメッキにもウィスカが発生するんですよね
そうなると、FFCにおいても平型導体からウィスカが延びてしまうことになるので、隣り合う平型導体同士でショートしてしまう危険性を孕んでいたわけです。

図2

そこで、当初はすずと鉛を混ぜたはんだメッキを使用するようになっていました。
同一金属のみで構成されたメッキよりも、別の金属も合成させたメッキの方がウィスカが発生しにくいからです。

なのですが、RoHS指令の使用制限6物質に鉛が引っかかってしまい、はんだメッキを使用することができなくなりました。

ではどのように対応するのかというところで、ウィスカ対策という観点での金メッキが候補に挙がってきました
金属表面にウィスカができるとは言っても、金だとウィスカが発生しにくいのです

これらの情報を踏まえてメーカが検証を重ねた結果、「ウィスカが1.0mm以上に成長することはまずあり得ない」ということがわかりました。
だから、1.25mmピッチと1.0mmピッチはすずメッキで良いのです。
反面、0.5mmピッチだと完全に安全とは言い切れない距離になってしまうので、金メッキが推奨されるようになったというわけです。

近年ではウィスカ対策をした0.5mmピッチ製品も開発されているので、0.5mmピッチでFFCを使用する場合は金メッキもしくは対策すずメッキを選択しておくのが無難です。

ちなみに、異種金属接触は腐食の原因になるので、FFCとFFCコネクタでメッキの種類は統一するようにしましょう。

4.FFCの定格電流

電線には、流せる電流値の上限が決まっています。
電線は平たく言えば導線を絶縁体で覆ったものです。
その為、電流を流すと導線が発熱し、ある一定温度を超えると導線を覆っている絶縁体(絶縁被覆)を溶かしてしまいます。
酷い場合は、発火・焼損にまで到ることもあります。
実際、焼損した車の市場不具合品を回収して再現試験をした際に、電線が燃えあがる様は見たことがあります。
普通に燃えるんですよ、アレ。

そんな理由により、電線には定格電流(許容電流・許容値と呼んでいることもある)というものが定められています。

定格とは、機器を安全に適正使用するための仕様・使用限度のことです。
つまり、定格電流とは「安全に使用するための目安となる電流の上限値」だと思っていただければ良いです。

そんな定格電流がFFCにも設けられているのですが、調べても全然見つからないことが普通にあります。
定格自体は他にも定格電圧・定格温度辺りも重要になってくるのですが、この2つのパラメータに関しては調べればすぐに出てきます。
なので、定格内で使用するように心掛けてくれれば問題無いのですが、何故か定格電流だけ中々調べても見つからないんですよ。

基本的には、1mmピッチのFFCで1pin当たり1.0A、0.5mmピッチのFFCで1pin当たり0.5Aとなっていることが多いです。
ただ、絶対とは言い切れないので、鵜呑みにはしないでください。
あくまで参考値でしかありません。

FFCのメーカは複数存在しますが、FFCというケーブルに焦点を合わせると使用している線材自体は大体共通しています。
私個人としましては、UL20706を使用していることが多いです。

UL20706というのはUL規格にて定められた標準品のことです。
UL20706という線材を使用しているのなら、どこのメーカでも同じ性能になるのだと思ってください。
UL規格とUL線については別途まとめてあるので、気になった方は以下の記事をご覧ください。

【基礎から学ぶ電線】 束線製作依頼時に押さえておくべき基本事項 ~UL線の選定では何を意識するべきか?~
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注意点①:FFCとFFCソケットの定格電流

定格電流に関する注意点が2つありますので、順番に記述していきます。

ここまでの説明で、FFCには定格電流があり、その範囲内で使用する必要があるという点は理解してくれたかと思います。
ただ、ここに注意点があって、FFCケーブルとFFCソケットの定格電流は同じとは限りません。

例えば、JST(日本圧着端子製造)のFMNコネクタというシリーズのFFCソケットは、1.0mmピッチで1pin当たり0.5A AC/DCを流すことができます。
このFFCソケットにUL20706の一般的な1.0mmピッチFFCケーブルを用いたとします。

このFFCケーブルの場合、1pin当たり1.0A流すことが可能です。
そうなると、FFCケーブル上は1.0A流せるのに、FFCソケットには0.5Aしか流せないということになります。
この組み合わせの場合、0.5A流すとFFCソケットが定格オーバーしてしまうので、例えFFCケーブルに1.0A流せるとしても、定格電流は0.5Aで考える必要があります。

このように、FFCケーブルとFFCソケットで定格電流が異なる場合があるので、定格電流に関してはFFCケーブルとFFCソケットの両方をしっかりと調べるようにしましょう。

注意点②:全てのピンで定格電流を流すことはできない

仮に定格電流が1.0AのFFCがあったとして、ピン数は20pinあったとします。
この場合、全てのピンに対して1.0Aを流すことはできません。
これはFFCに限った話ではなく、電線全体に通じる話です。

電線は、心数ごとに定格電流が別々に設定してあります。
単純に、心数が増えれば増えるほど定格電流が下がっていきます

同じ電線を複数束ねて使っているだけなのに何故定格電流が下がっていくのかというと、まとめて配線しているからその分熱が籠もるためです。

心数1のケーブルに電流を流したら、その電線のみが発熱します。
なので、熱は大したことがありません。
ですが、何本も電線が束ねられたケーブルでそれぞれの電線に電流を流すとどうなるでしょうか?
ある電線の熱により隣にある電線が熱せられますよね?
すると、ケーブル全体の熱も当然ながら上がるのです

定格電流を超えた電流を電線に流すと発火や焼損の可能性が高まるという話をしましたが、これは高電流により導体が発熱し、その熱に耐えきれなくなった絶縁被覆が燃え上がるというメカニズムによるものです。
つまり、「ケーブルの温度が上がる=電流も流せなくなる」ということになります。
だから、心数が多いほど定格電流が下がっていくのです。
この考え方がFFCにも適用されるのです。

FFCの構造は、等間隔に並んだ平型導体を絶縁フィルムで上下から挟み込んで熱溶着・圧着してあるというものでした。
なので、あるピンに電流を流すと、絶縁フィルム越しに他のピンに熱が伝わっていきます。
それにより、FFCの定格が1.0Aだとしたら、全てのピンをフルに使用したい場合は0.7~0.8A程度に電流を抑えて使用する必要があります
多めのピンを使用する場合は、大体7~8割に抑えておきましょう。
完全にフルで使用する場合は条件が明確になっているので、メーカに相談して定格をはっきりさせておくとなお良いです。
中途半端なピン数だとメーカとしても答えづらいですからね。

また、どうしてもあるピンのみ定格をオーバーしてしまうようなことがあった場合、複数ピンを割り当てるなり工夫するのもありです。
FFCはピン数が必然的に多くなるので、この辺りは柔軟に対応しましょう。
1pinに1信号なんてルールは存在しませんからね。

以上、「FFC選定時に気を付けるべきこと」についての説明でした。