【電気部品・電子部品の解説】 リセットICとは? ~電源電圧を監視してリセット信号を出力するIC~

電気電子
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク

電気の仕事をしていると様々な部品を用いる機会が出てきます。
コイル・コンデンサ・IC・コンバータ・パワーサプライなどなど…名前は聞いたことあるけどイマイチ何なのか理解していないものもあるのではないでしょうか?
この記事では、そんな部品について基本からわかりやすく解説していけたらと思っています。
機械部品に関する記事も混ざってたりしますが、深く考えないでください。

分類するのが面倒だっただけです。

今回は、「リセットIC」についての説明です。

1.リセットICとは?

リセットICと聞いてどんなICを想像しますか?
リセットをするのでしょうけど、どんな状況で何をリセットするつもりなのか、おそらくイメージがうまくできないのではないでしょうか。

リセットICは、電源監視ICボルテージディテクタ[voltage ditector(電圧検出器)]とも呼ばれます。
この呼び方なら意味が想像しやすいですよね。
つまり、電子機器内で使用される電源電圧を監視し、検出した電源状態に応じた出力を行うICがリセットICです。

電源投入時や過電圧などの異常を検知した際にICの誤動作を防ぐためにリセット信号を出力することができるので、リセットICと呼ぶわけです。
端的に言えば、想定通りの電源が供給されているか監視しているICです。

リセットICの検出方法ですが、しきい値(基準電圧)を上回ったことを検出する場合下回ったことを検出する場合の2パターンが主な用途となります。

リセットICのデータシートには、図1のようなしきい値を示したグラフが存在します。

図1

このグラフからは以下のようなことが言えます。

①供給電圧VDDが検出電圧-VDETを下回ると出力電圧VOUTGND出力になる。
⇒基準電圧を下回ったことを検出すると即座に出力の論理が反転する。

②供給電圧VDDが解除電圧+VDETを上回ると遅延時間分遅れて出力電圧VOUTが供給電圧VDDと同等になる。
⇒基準電圧を上回ったことを検出すると遅延時間分時間を置いてから出力の論理が反転する。

①は遅延時間が無くて②は遅延時間がある理由は、使用用途の違いによるものです。
①は異常検知が目的なので即座に反応すべきで、②はリセット動作を確実に行うことを目的としているのでマージンを持たせているだけです。
なので、②を過電圧の異常検知に使用する場合は、意図的に遅延時間を無くす必要があります

リセットICの種類によりますが、外付けのコンデンサで遅延時間を制御できるものや、あらかじめ遅延時間が無い/有る状態で固定されているものなどがありますので、用途に合わせて選定しましょう。

ちなみに、供給電圧VDDが小さくなり過ぎてリセットICの動作保証電圧を下回ると、出力電圧VOUTは不安定になってしまいます。
注意しましょう。

2.しきい値が解除電圧と検出電圧の2つ存在する理由

リセットICのしきい値は立上がり時の解除電圧+VDETと立下り時の検出電圧-VDETの2つ存在しました。
このしきい値の電圧差のことをヒステリシス幅と呼びます。

このヒステリシス幅ですが、何故わざわざこんなものが設定されているのか疑問に思いませんでしたか?
『立上りだろうが立下りだろうが、しきい値は1つで良いのではないか?』という疑問です。
これは、いわゆるシュミットトリガの役割を持たせるための措置です。

シュミットトリガとは、しきい値を二つ設けることでしきい値を跨がない限り出力が変化しないようにする構造のことです

例えば、リセットICのしきい値が1つだったとして、供給電圧VDDが図2のように変化したとします。

図2

理想は直線的に供給電圧が上がっていくことなので、一旦下がっているのは想定外だとします。

この場合、しきい値より小さい場合は出力がLowレベル、大きい場合は出力がHighレベルに変化しますので、Low→High→Low→Highと変化してしまうことになります。
つまり、もしもしきい値付近で供給電圧VDDが暴れてしまうと、出力が安定しなくなってしまうんですね

なので、しきい値を解除電圧と検出電圧の2つ用意し、以下のようなルールを設定しています。

  • 供給電圧が上昇する方向では、解除電圧を上回らなければ出力電圧VOUTはHighレベルに変化しない。
  • 供給電圧が低下する方向では、検出電圧を下回らなければ出力電圧VOUTはLowレベルに変化しない。

こうすることで、しきい値付近で供給電圧VDDが多少暴れても、リセットICの出力電圧VOUTは安定するようになるのです。

図3

ただ、ヒステリシス幅が大き過ぎると検出電圧が監視先の最低動作電圧を下回ったりする可能性も出てきます。
車載用途の場合、寧ろヒステリシス幅を許容できないのでしきい値が1つになっていることもあります。

3.使用事例

実際にどんな場合に用いられているのかを説明していきます。

例①:マイコンを安全に起動する。

昨今の電子機器の多くにはマイコン(コンピュータを制御するための機能を一通り備えた制御IC)が搭載されています。
電源投入時のマイコンは内部論理が定まっておらず、不安定な状態になっています。
なので、一度リセットしてマイコンの状態を初期化する必要があります

なのですが、マイコンに供給されている電源電圧が動作保証電圧を満たしていなかった場合、マイコンの誤動作や故障の要因になってしまいます。

そこで、電源が安定した出力をできるようになるまでの時間も加味してリセットに必要な時間を確保し、その間はリセット動作を続けるように制御する必要があります
こうすることで確実にリセットを行い、初期化を行っているんです。

このように、電源をONしてから確実にリセット動作を完遂させるための一連の動作や回路のことをPORと呼びます。
そして、このPORを実行できるのがリセットICです。

具体的にどんな接続でどんな動作をするのかを説明していきますね。

まず、電源電圧をリセットICの供給電圧VDDとして入力します。
これで、リセットICは電源電圧に対応した出力をすることになります。

電源をONにしてから電源電圧が解除電圧+VDETに到達するまでの間は、リセットICの出力電圧VOUTが0Vになります。
この信号をマイコンに繋いでおき、信号入力がLowレベルになっている間はマイコンはリセット動作を続けるようにします。

電源電圧が解除電圧+VDET付近まで上昇すると、マイコンの動作保証電圧が確保されます。
つまり、マイコンのリセット動作が正常に実行できるようになります。

そこから遅延時間を設けることで、マイコンのリセット動作を確実に完了させるわけです。

遅延時間が経過したタイミングでリセットICの出力電圧VOUTが供給電圧VDDに変化するので、マイコンに入力されている信号がLowレベルからHighレベルに変化し、マイコンのリセット動作が終了します。
こうしてマイコンの初期化が終了し、マイコンは正常動作をするわけです。

リセット動作を解除する電圧だから解除電圧だと覚えておきましょう。

例②:過電圧を監視する。

リセットICというより電源監視ICと呼んだ方がしっくりとくる使い方です。
単純に、過電圧を監視したい箇所をリセットICの供給電圧VDDとして入力するだけです。

リセットICの供給電圧VDDとしてマイコンの電源電圧を供給させ、マイコンの電源電圧が過電圧に値する数値より小さい間は出力電圧VOUTの論理はHighレベルになるようにしておいたとします。

基本的な考え方は例①と同じなのですが、大きな違いが1点存在します。
それは遅延時間の要否です。

過電圧や過電流って電子機器の故障に結びつきますよね?
定格を超えたものが入力されてしまうわけなので当たり前です。
なので、過電圧を検出したら即時に反応して欲しいんですよ

例①の場合は確実にリセット動作を行うことを目的としていたので遅延時間が必要だったのですが、過電圧を監視する場合は寧ろ遅延時間は邪魔になるんです。
従って、過電圧監視用途でリセットICを使用する場合、意図的に遅延時間を無くす必要があります

こうすることで、過電圧を検出したらリセットICの出力電圧VOUTの論理がHighレベルからLowレベルに瞬時に変化します。
それに応じてマイコンへの電源供給をシャットアウトするわけです。

逆に、過電圧が解除されて正常値に戻る時には遅延時間が必要になります。
過電圧を検知してマイコンへの電源供給を遮断しているので、正常値に戻った場合はマイコンに電源が投入されることになります。

ここで先程の説明を思い出して欲しいのですが、電源投入時のマイコンの論理って不安定なんです。
なので、PORが必要なんです。
ということで、立ち下がり方向では遅延時間が必要になるのです。

説明は省略しますが、同じ考え方で供給電圧が規定値を下回った場合の監視も可能です。
電源電圧は小さ過ぎても動作に影響を及ぼしますので、そういった用途もあるのです。

4.リセットICの最低動作電圧を下回るとどうなる?

リセットICの内部には抵抗やコンパレータなど様々な電子部品が用いられていますが、出力部分には大概FETが使用されています。

リセットICは監視対象であり且つ供給電圧であるVDDで動作していることが多いので、FETの動作電圧としてもVDDが使用されていることがあります。
ということは、供給電圧VDDが小さ過ぎるとFETが正常に動作しなくなります。
その為、リセットICには最低動作電圧が設定されています
その名の通り、供給電圧VDDが最低動作電圧を下回ると、動作が保証されなくなるんです。

では、最低動作電圧を下回ると実際にどうなるのかと言うと、出力電圧VOUTの論理は不定となります
要するに、HighレベルとLowレベルのどちらにもなり得て、どうなるのかわからないのです。
その為、リセットICを使用する場合は最低動作電圧を上回る領域での使用を心掛ける必要があります。

5.リセットICの監視電圧タイプ

ここまでの説明では、回路構成がシンプルでよく使用されているので電源電圧をリセットICの供給電圧VDDとして扱っていました。
ですが、実は監視できる電圧は電源電圧だけではなかったりします

リセットICのピン構成を閲覧した際にSENSE端子というものが存在した場合、このSENSE端子が電圧検出用の端子となり、VDD端子は電源供給用の端子となります。
最もシンプルな構成だと電圧検出用の端子と電源供給用の端子が共通化されているのですが、別々に分かれているタイプも存在するのです。

この分別されているタイプのメリットは、最低動作電圧を気にする必要が無くなることにあります。
SENSE端子に入力されている電圧がリセットICの最低動作電圧を下回ったとしても、電源供給用のVDD端子に供給されている電圧は低下しないので、リセットICは正常に動作するのです。

6.MR端子について

リセットICには、種類によってMR端子というものが存在します。

MR端子とは、“マニュアルリセット端子”のことです。
要するに、MR端子を使えば自分の裁量で意図的にリセット信号を出力することが可能です

MR端子にスイッチを経由してGND接続すれば、いつでも手動でリセット動作をさせることが可能になります。
※大体はLow信号にすればPORの動作をするように設計されているのですが、絶対ではないです。

ちなみに、メーカによってMR端子ではなくNRST端子だったりRESET端子だったりと名称に統一感がないので、見覚えの無い端子が存在した場合はデータシートによく目を通しましょう。

以上、「リセットIC」についての説明でした。